TKC東北会 No.218
TKC東北会 発行人/植村正美 編集責任者/水野貴雄
 創業・経営革新支援委員会レポート 
株式会社 近田会計事務所・・・・ 
監査第5課 市澤 武晴
 今、私達の真価が問われる  −− 経営革新を通じて−−
 青森県は以前、経営革新の認定件数が全国的に見て非常に少ない県であった。平成12年度、13年度は都道府県別でワースト2の認定件数であった。制度自体の認知度が低いということが顕著に現れており、残念ながら今時点においてもピンときていない経営者が実に多い。経営革新に限らず、あらゆるジャンルで注目度の低い県で、都道府県別ランキングだと、たいてい低位置におさまっている。だからといって私は決して青森県が嫌いというわけではない。大学も県内の大学に進学し、そのまま地元の会計事務所に就職した。地元で仕事をしたいと考えたのは、食べ物と酒がうまいというのが一番の理由。それは冗談として、エフリコキ(見栄っ張り)な人間が多い土地柄での商売の難しさを跳ね返し、がんばっている企業を支えていきたいと考えたからである。
 私が就職した時期は、バブルが崩壊して久しく、景気の冷え込みが一段と厳しい時期だった。どの経営者も口々に「先のことは分からない」とか、「なんとかなるだろう」と言葉にした。先が不透明な時代において、仕方が無いことと言ってしまえばそれまでかもしれない。確かに過去の栄光にすがりたい気持ちは分からないわけではないが、今は時代が変わった。成り行き経営がいかに最悪の結末を迎えるか、多くの企業の倒産劇を通じて知ることになった。作れば売れる時代は終わった。安けりゃいい時代も終わった。消費者は待ってくれない。今では当たり前の話だが、ほしい物があればインターネットなり何なりで簡単に手に入る。調べ物も飛躍的に楽になった。消費者側は非常に便利な世の中になったと感じる反面、商売をやる方は大変やりにくい時代になったと感じているかもしれない。 
 そういった意味では、今までのスタイルから脱却し、今の時代に合った新たな方向性を導いていく必要がある。まずは顧客の意見を真摯に受け止めること、そして自社の問題に気づくこと、目線を変えること‥・売り方はいいのか、粗利は適性か、費用をかけた分が利益として還元されているか。見直すポイントは多くあるが、いずれにせよこれらの諸問題を解決させることが、そのまま経営革新につながる。特別なアイディアがある企業だけが経営革新の認定を受けられるというわけではない。すべての企業が現状の経営を改革していこうとしなければならないわけで、結局のところすべての企業に経営革新のチャンスがある。 決してハードルの高い話ではない。全国で経営革新の認定を受けているのは、全事業所の0.2%程度。当事務所の関与先を見ても、認定件数自体は多い方かもしれないが、全関与先の1割にも満たない件数である。そこで県庁や中小企業支援センターでは、何とか認定件数を増やそうと各地で説明会を開催し、パンフレット等を配布し普及活動に熱心で、その内容も分かりやすくすばらしい。申請書類の作成についても、懇切丁寧に教えていただき、対応が良くなっていった。また、県の方から積極的に「○○という内容も加えた方がいいんじゃないですか?」というように、数をこなすことにより、更にレベルの高い指導を受けることができた。
 青森県は2ケ月に一度、県庁の庁舎内において経営革新審査会が行われ、申請企業が審査員(行政、学界、中小企業支援センター、政府系金融機関等の各担当者9名で構成)の前でプレゼンテーションを行う。県の担当者からは事前に質問が想定される箇所について連絡が来るため、審査会にはゆとりを持って臨むことができる。プレゼンテーションの時間は1企業あたり15分程度。早ければ次の日には各企業に承認の旨が伝えられる。
 ここで、当事務所における経営革新での成功事例をご紹介しよう。
1つ目は「TKC2005年3月号」の内容と重複するが、ある勉強会で携帯電話の販売会社の社長と知り合いになった。その社長は「新店舗を作ろうとしているのですが資金が足りません。費用は5000万円必要です。」「経営革新法をご存じですか?」社長は知らなかった。それもその筈、PR不足で経営革新法の存在をまだ多くの経営者は知らない最中。さっそく法律の概要を説明したところ、承認支援を当事務所が引き受けることになった。はどなく承認申請は審査会を通過し、政府系金融機関から5000万円の低利融資を得ることができた。
しかも携帯電話メーカーからは店舗新築に伴う助成措置も受けることができたということであった。気を良くされた社長は、「近田会計に関与全体をお願いしたい」と相談に来られた。決して当事務所の方から関与を移るよう促したわけではない。関与先側から自主的に移りたいと言ってきたのだから、経営革新の力によるところが大きい。
 2つ目は賃衣裳業の企業で申請をしたが、ブライダル件数の減少で売上が前期比20%減、経営環境悪化の危機に瀕した。その直前に経営革新認定を受け、低利融資を受けていたため大事には至らなかったが、今でも社長は「あのときの融資が無かったら今頃どうしていたことか・‥」と振り返る。現在は承認計画を実行に移しながら、本格的な販路拡大に力を入れているが、こちらの企業の経営革新申請への経緯は、当事務所で行った「経営革新セミナー」に参加してもらい、出席した会長から是非認定を受けたいと言われた。「考えがあるからそれを経営革新法で認定してもらいたい」というのではなく、「認定を受けたい内容はこれから考える」という珍しいパターンで申請に至った。どういう形であれ、経営者にこの先どうしていくか考えてもらうきっかけになったということは、セミナー活動がいかに重要かということ。今後もセミナーを通じて、より多くの経営者に経営革新法を知っていただくことが会計事務所の使命であると言える。
 会計事務所と経営者が手と手を取り合い、成功へ導いていくことが私達の業務に高い付加価値をもたらす。付加価値の増加・・・まさしくこれは経営革新申請における目標であり、私達の業務においても、関与先の経営革新支援(つまりこれが会計事務所における付加価値)が私達の発展に結びつくことに早く気づき、行動に移していただきたい。当初私達の事務所も5件、10件申請した頃は正に手探り状態での申請であった。慣れない仕事のため遅くまで残業することもあった。しかし一歩一歩着実な歩みが、より高い次元の成功をもたらす。これからもどんどん押し寄せてくる時代の荒波を、経営革新によって私達は関与先とともに乗り越えていかなければならない。